『愛すべき娘たち』: 「そうよ、八つ当たりよ」と返す母親の潔さ
タイトルは、よしながふみ作の漫画『愛すべき娘たち』の台詞からです。
最初の2ページくらいで現れる台詞なんですが、初めて読んだときは、それはもう強烈なインパクトがありました。
▼2003年発売。よしながふみ『愛すべき娘たち』
「そういうのって、八つ当たりだと思うの!」子どもに言われたら、どう返す?
以下、ちょっとネタバレになってしまいますが、作品は、仕事から帰ってきた母と高校生の娘が話をしている場面から始まります。
以下、台詞は雰囲気です。実際の作品での台詞の言葉のチョイスはこれまたインパクトがあって面白いので、後半で引用しているもの以外、あえてぼかしています。
仕事から疲れて帰ってきた母親が、娘が散らかしあげて、雑然とした部屋を見て、
「なんで、もう、こんなに散らかして! いらないわね。あれもこれも捨てますよ!」
と言いながら猛烈に片付け(るふり)を始めます。
それに対して娘が、
「お母さん、ちょっと待ってよ! それまだいるんだから!」
「ねぇ、前から思ってたんだけど、どうしてお母さんそうなの!? そういうのって、八つ当たりだと思うの!」
と言いながら抗議します。
それに対するお母さんの答えが冒頭の台詞です。
そうよ八つ当たりよ それのどこがいけないの?
これだけでも結構なインパクトなんですが、そこからさらに続けられる台詞も好きでして、それがコレ。
親だって人間だもの 機嫌の悪い時くらいあるわよ!
あんたの周囲が全て あんたに対してフェアでいてくれると思ったら 大間違いです!!
秀逸。
八つ当たりなんかじゃないわよ、貴方のためを思って言ってるのよ、ではないのです。
誰もが自分に対して、常に公平に向き合ってくれるわけではないのは、事実な訳で。
嫌なことがあってイライラしていたり、
悲しいことがあって落ち込んでいたり、
喜びや嬉しさのあまり有頂天になっていて鬱陶しかったり(笑)
そこを見事についてるなと、とても好きな場面です。
そしてこの冒頭の親娘のやりとりの面白さは、『愛すべき娘たち』の、ほんの序ノ口でして。
話が進むにつれて、祖母や昔の友人、夫、彼氏なども登場しつつ、数10ページずつの短編で区切られながら全体のストーリーもゆるやかに進みます。そして、印象に残る場面や台詞が、怒涛のように押し寄せてきます。
初めて読んだのは10年近く前になりますが、今でも手に取り、読み返しています。
と、ここまでの部分をかなり前に書いていたのですが、下書きのまま残っていたエントリでした。下書きを書いたのは、息子が9ヶ月くらいのときです。
その頃は、息子はそれはもちろん可愛いのだけれど、自分の体調もまだまだ本調子でなく、息子の構え構え攻撃に一人で対応し続けなくてはならないことにうんざりして、自分の調子次第で息子への対応も邪険になったりということが、今よりも多かったと思います。
なんというか、距離感をまだまだコントロールできなかった頃でした。
もしくは、態度には出さないところで食い止められていても、心のなかでは相当悪態をついて疲弊していたり。
そんなときに、そうだよ、親だって完全じゃない。自分の調子次第で子どもに八つ当たりすることもあるさ、と。何となく救われていました。
もちろん、大人なので、自分の機嫌はなるべく自分で取れるようにしなくてはならないですが、これからもきっと、自分の調子一つで子どもへの対応を変えてしまうことはある! と断言できます。
ですが、そんなとき
「貴方のためを思って言ってるのよ」
なんておためごかしは言わず、「ごめん、八つ当たりした」と認められる、潔い親でありたい。
そんな風にも思わせてくれた、味わい深いオススメの1冊です。
小ネタ的にはさまれている時代劇談話も好き。そう、村上弘明は時代劇では若手だったのです(笑)
こちらもすごいストーリー展開・キャラクター設定で、ワクワクドキドキ。 よしながさんの作品は、ここがもう、こんなに素敵で、すごいんだよ!というポイントが人それぞれありそう。