最高裁の夫婦別姓に関する裁判の判決に思ったことなど(後編)
最高裁の夫婦別姓に関する裁判の判決に思ったことなど(前編)の続きです。
判決文のなかで言及される「家族のかたち」が気になったので、それについて書いていきたいと思います。
親子関係の発生が前提?
今回の裁判では、上告理由の1つとして「夫婦同姓の民法の規定は、憲法24条第1項・第2項に違反する」との主張がなされていました。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
日本国憲法
判決文では、これは立法側で対処すべき問題であるという内容が繰り返し書かれてはいました。
しかしながら、司法として違憲でないとの判断をくだす上で、夫婦が同姓であるとその子どもが嫡出子であることが分かりやすいため、との論旨が繰り返し書かれていたのが、うん!? と引っかかりました。
夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを,対外的に公示し,識別する機能を有している。
特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるところ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられる。
平成26年(オ)第1023号 損害賠償請求事件(判決文PDFへのリンクあり)
この論旨は、子どもを持たないという選択、または持てないという現実がある夫婦には、説得力に欠ける理屈ではないか!? と。
子どもを持たないという選択をされているカップルは、入籍はせず、事実婚をされている場合もあると思いますが、パートナーに何かあった場合、手術の同意、付き添い等、法的な保証がない関係では対応できない部分もあると思います。
また、夫婦となったからには子どもが産まれる、それを前提としたような議論のすすめ方は、そもそも「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」としている憲法の趣旨から外れるのではないかと、モヤッときました。
立法機関に望むこと
まだまだ時間が掛かりそうですが、私個人は次の2つのうちのどちらかの制度変更を願っています。
- 「選択的」夫婦別姓制度を定める
- 通称使用の適用範囲を大幅に拡げる
兎にも角にも、改姓した側は、事務手続きがクソ面倒くさい。
民法が制定された明治時代しかり、昭和初中期しかり、名義変更が必要となるものは、ここまで多くなかった、というかほとんど無かったのではないでしょうか。
なので、今後の世代のためにも、希望するならば別姓のまま婚姻が可能という制度となるか、
改姓した側の負担を軽減するために、公的な場面での通称使用ができる範囲を拡げてもらいたいです。
以前、 名義変更が面倒くさいので選択的夫婦別姓に賛成派 にも書いたのですが、私自身はどうしてもという強い、差し迫った理由がなかったので、96%(婚姻時に夫の氏に揃えた婚姻数の比率)のうちの一組として、夫の姓になりました。ですが、いまにして思えば、こんなに自分が色々面倒くさいと感じることを知っていれば、真剣に交渉していたかもしれません。
その当時は、改姓したことによるアイデンティティの喪失、との感覚はなかったのですが、
姓を揃えろと求められたから揃えたのに、何かにつけて「新姓のアナタは、旧姓のときのアナタと同じ人間であることを【アナタが】証明しなさい」と求められる理不尽さ・意味不明さには、苛立っています。
そして、これこそがまさしく、日本語の「アイデンティティ」という言葉から連想される精神的なふわっとしたものではなく、実務的なものとしての「アイデンティティ(Identity: 同一性)の喪失」なのだと思うようになりました。
また、別姓制度を巡る議論では、子どもが親と姓が違うことで気に病むのではないか? と危惧する声が挙げられたりします。
ですが、それは、夫婦同姓が規定されている状況であるからこそ出てくる発想であって、別姓世帯が一定数いるような状況となれば、気にすることではなくなると思っています。
第一、子どもに関する書類を記入していても、「保護者」として1名分のスペースしか用意されていないことが大半じゃないですか!?
今回の裁判では、現状は「違憲である」と判断した裁判官が5名(だけ)いらっしゃいまして、その方々の意見(判決文の後ろの方に記述されています)には、読んでいてうなずくことしきりでした。
現在の夫婦同姓強制制度では、当事者にどのような不都合が生じているのか?
興味のある方には、ぜひ目を通してみていただきたいです。
平成26年(オ)第1023号 損害賠償請求事件(判決文PDFへのリンクあり)
とにかく今後の早い変革を待っています。
余談
今回の判決に関連して、選択的別姓が認められていない国は日本くらいだとの報道も多くされていました。
しかし、それらの記事に目を通してみると、別姓制度が認められていると紹介されていた国の例として、「夫:そのまま 妻:夫の姓 −(ハイフン) 妻の姓」というものが含まれており…それは「別姓」なのか?とツッコミたくなりました。
個人的には、上のような姓の連結バージョンは婚姻関係の有無が丸わかりになるので、「別姓」とはみなしたくない派です。(旧姓「併記」も同様にイヤ)