2017年1月中に読んだ本
先月は中々読み応えのある本に出会うことができました。
『あえて選んだせまい家』以外のの3冊についての感想などを、書きたいと思います。
▼ 『あえて選んだせまい家』の感想はこちら
目次
ダン・サヴェージ著『キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったか』(大沢章子訳)
新聞の書評で取り上げられていたことで知り、図書館で借りてきて読みました。後ろに予約が詰まっていたので、読み返すことはできなかったのですが、出会えてよかった1冊です。
タイトルに「僕と彼氏は」とあるように、アメリカで暮らす同性カップルのお話です。
彼らがどのように出会い、どのように考え、なぜ子どもを持とうと思ったのか。
そして、子どもを持つと決めてから「オープンアダプション(開かれた養子縁組:養親と生みの親がなんらかのコミュニケーションを持ち続ける形の養子縁組)」を行っているエージェントの扉をたたき、生みの親宛の手紙を書き、自分たちが育て親として選ばれるのを待つ日々をどのように過ごしたのか。
また、彼らに子どもを託そうと決めた母親(父親)との出会いから、実際にその子どもの養育権を得るまでの交流などがつづられた、ノンフィクション作品です。
日本での発売は昨年の2016年8月なのですが、原書は1999年(!)に出版されています。
本では、コラムニストでもあるダン氏によって、赤裸々にかつ軽妙に、ときにユーモアや皮肉をまじえつつ、開かれた養子縁組にいたるまでの日々がつづられていますが、ゲイであることが日本と比べれば受け入れられていそうなアメリカ社会でも、ゲイであることでどれだけ気を張って暮らしているのかが伝わってきました。
また異性カップルであれば特に大層な理由付けなどは求められない、ましてや奇異な願望として受け取られることなど決してない「子どもを持ちたい」との願いを、同性カップルであるというだけでなぜ理論武装しなければいけないのか、どのように理論武装しようか、など。
養子縁組のエージェントで待機リストに載せてもらうためには、まだ見ぬ生みの親宛の手紙を書く必要があるのですが、その手紙をどう書かこうか自問自答するくだりなども、読み応えがありました。
さらには、この本を読んだことで、まだまだ一般的ではない日本の特別養子縁組制度(法的に血のつながりがない6歳未満の子どもと夫婦が、法律上の親子になること)について、目を向けるきっかけにもなりました。
日本では親子というと、とかく「血の繋がり」を重視する風潮が強いですが(最近では、親子断絶防止法案など。問題点はここなどにある通り)、平和なあたたかい問題のない家庭ばかりではないという現実も厳然としてあるわけでして。
家族となってからのその後の姿を描いた続編の翻訳が、今年の春頃に出版されるそうなので、読める日を楽しみにしています!
[トピックス]ダン・サヴェージ『キッド』大沢章子訳 みすず書房
「It Gets Better」運動について
著者のダン氏は、LGBTの若者に向けて「この先はもっと良くなるよ(It Gets Better)」とのメッセージ発信運動をはじめた方でもあるそうです。
YouTubeにある、パートナーのテリー氏とのメッセージ動画がこちら。
< youtube //www.youtube-nocookie.com/embed/Q-9uSExw3ig >
動画の最後の方で「生きていて幸せですか?」とのインタビューアの質問に、「もちろん」応え合うお二人の笑顔が、とても印象的です。
髙崎順子著『フランスはどう少子化を克服したか』
来年度の保育園の入園承諾・許諾通知が届く季節、届き始めている季節ですが、**日本はいつまで待機児童問題を続けるつもりなのか?**心底知りたい。
私が大学生だったおよそ10年前から、研究室の先輩女性陣より、実体験とともに聞いていた話ですよ「待機児童問題」って。
防衛費には5兆円超さけるのに、オリンピックには何兆円もつぎ込めるのに、一億総活躍社会とか言っちゃってるのに、子育て関連の社会保障に使うつもりのお金は「ほんのぽっちり」なんですよね、日本て。
最新鋭(!?)の防衛設備を購入しても、守るべき国民はすでに存在せず、朽ち果てたオリンピック関連のレガシーや防衛レーダーだけが動き続けるという、SFチックな世界が目に浮かびます。
一方フランスですが、フランスでは国を挙げて少子化対策に取り組んだ成果が出てきています。
本は、そのフランスの子育てに関する政策(妊婦健診や出産費用、父母の育休制度や保育制度)について、フランス在住のライター高崎氏が網羅的にまとめられたものです。
この本を読んで知ったのは、フランスでも、都市部の0〜1歳の保育園事情は、日本と同じく数が足りていないとのこと。
しかしながら、代替手段として、保育ママやベビーシッターの利用への手厚い控除や減税が用意されている点が大きく異なります。
また保育園の利用についても、家庭の所得が基準より高い場合は、保育園ではなく、費用負担が「やや」大きくなる保育ママやベビーシッターの利用へ回されるとのことで、中程度の所得層に手厚い保育支援という制度も羨ましい限りです。
日本では、夫婦フルタイムでも認可保育園に入れないことがザラですが、そうなると時短勤務やパートタイムでは、そもそも競争ラインにも立てず。
認可外保育園に預ける(認可外に預けられるだけでも御の字ですが) → 保育費用の負担が高い → 何のために働いてるの? → 離職 or 余裕のない経済状況が続く、いうことになります。
また、共働き世帯で保育園の利用が埋まるため、片働き世帯にも需要がある一時保育には、対応の余地がありません。
フリーランスの場合はそもそも育休がなく、産休明けからの保育が必要になりますが、在宅勤務が可能ならご自宅で子どもを見つつ、仕事も出来ますよねと優先順位が下げられたり。
さらに片親家庭でも、保育園入園の選考時点での就労実績が乏しければ、容赦なく待機児童とならざるを得なかったり。
あとは生まれ月によって、入りやすさに違いがあるとの問題や、役員職についている女性は会社と雇用関係にないため、育休が取れない問題なども。
ある程度大きくなるまで家庭で保育すれば解決!という意見も根強くありますが、日本では復職後の職位の保障はありません。フランスでは、法律で保障されています。
その他、フランスの大学は学費無料ですが、日本の国立大学は?私立大学は?
20〜40代くらいの年金はどうなるんでしょうか?医療費は?老後資金は?
国会議員は73歳定年にぶちぶち文句を言う暇があるなら、子どもを減らしたいのか、増やしたいのか、いい加減ハッキリせい!というのが、子育て世代の一人としての本音です。
ウォルター・ミシェル著『マシュマロ・テスト:成功する子・しない子』
マシュマロ・テストとは、
幼児を部屋に呼び、お皿の上にマシュマロを1個用意します。それから大人は部屋を出ますが、そのとき子どもには「食べてはダメだよ」と伝えます。さらに、「戻ってくるまで食べるのを我慢できたら、もう1個あげるよ」と伝えます。
そして、子ども達が待てるかどうか? それとも、我慢できずに食べてしまうか? を見るテストです。
マシュマロに限らず、チョコでもアメでもなんでも良いのですが、考案したミシェル氏にとっては、子どもがどのように自制心を働かせるのか、その方略を調べるためのテストでした。
しかしながら、フォローアップとして、マシュマロ・テストを受けた子ども達が大人になってからの経済状況や健康状況を調べてみたとこと、マシュマロテストで我慢できた時間と、成人時の経済状況や健康状況の良好度合いに、正の相関が見られた、との結果が。
この本は、このテストを生み出し、長年にわたり研究を主導してきたミシェル氏が書いたものです。
相関関係がありましたよ、という結果の解釈で1つ注意しなくてはいけないのは、「マシュマロを食べるのを長いこと我慢できた」→「社会で必ず成功できる」ではないことです。
あくまでそういう傾向があったというだけで、因果関係を保障するものではありませんし、「必ず」が保障される訳でもありません。(マシュマロ・テストで長い時間我慢できていても、経済・健康状況に恵まれない大人になっていることもある。我慢できなくても、経済・健康状況に恵まれた大人になっていることもある、など)
その辺りのことは、ミシェル氏も本のなかで繰り返し強調されていました。
ミシェル氏は若かりし頃、教育困難校でのボランティア活動などもされており、どのような教育を施せば、恵まれない環境に育つ子ども達の手助けになるか、なども問題意識として持ち続け、研究を続けてこられたそうです。
今回の本でも、目の前の報酬に飛びついてしまうことを抑えるためには、「他のことに目を向ける」「自分がその後得られる体験を具体的に想像してみる」など、どうすれば衝動に支配されすぎずに生きていくことができるか、書かれていました。
著者自身が中々タバコをやめられなかったり、研究結果が気になると夜中でもお構いなく同僚や学生に連絡を取ってしまったりと、自身の衝動性の制御(自制心)に問題があることも自覚しているそうです(笑)
研究者は自分にないものを研究したがるという、あるあるですね。
がっつりと突っ込んで、得られたデータについての議論や、得られたデータからの提言、などをしている本ではないので、少しばかり物足りなさはあったのですが、
家庭環境や学校などの教育環境の差によって、自身の衝動をうまく制御する術を身につけられず、結果的に貧困が連鎖しやすい構造になってしまっている社会へのミシェル氏の問題意識は、とても伝わってくる本でした。
1月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1163
ナイス数:4
あえて選んだせまい家 (正しく暮らすシリーズ)
読了日:01月28日 著者:加藤 郷子
キッド――僕と彼氏はいかにして赤ちゃんを授かったかの感想
これ、とても面白かった。2007年に出版されている続編の翻訳が、今年の春に刊行予定とのことで、楽しみ。
読了日:01月25日 著者:ダン・サヴェージ
フランスはどう少子化を克服したか (新潮新書)
読了日:01月12日 著者:髙崎 順子
マシュマロ・テスト:成功する子・しない子
読了日:01月05日 著者:ウォルター・ ミシェル
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